君とまどろみ

いつも眠たそう

左側を歩く

 

 

 

1ヶ月以上前から約束した旅行。彼を見つけて思わず顔はほころんだのは数日ぶりに会えたのがうれしかったのもあるけれど、何より紅葉を見に行くってのに半袖を着ていたから。北海道民からしたら夏の夜ぐらいらしい。青いラインの入った新幹線に乗るのは、上京以来で懐かしい。2時間ちょっと揺られて目的地へ。改札を出るとコロナ禍の隙間を縫って訪れたであろうカップルや、待ちに待ったと実家のある土地へ向かう家族連れ。お土産袋を両手いっぱいに抱えた修学旅行生で溢れかえる。

行きたいと言って連れていってくれた立呑みやさんは人気があって、雨が落ちる寒空の下、たいそうな時間行列に並んだ散歩がてら寄った古着屋さんでイタリア製の白いニットを手に入れていたことは伏線だったのかもしれない。空腹と暇に耐えかねて、しりとりしようって言ったら彼は変な顔をした。しりとりはしてくれなかったし、あたたかいもの連想ゲームは冷たいものばっかりあげてくるので心底凍えた。やっとこさ席についてからは熱燗を6合くらい頼んだ。彼は自分が酔っ払うと私に全部飲ませる。わたしは彼よりもたくさん飲んだ。炭で焼かれた鰹もせせりも香ばしく、昼ごはんのタイミングを失った胃腸が喜ぶ。この街では鱈の白子を雲子と呼ぶのがなんだかかわいくて気に入った。隣にいた夫婦の方言と地元の話に癒される。

 

わたしは彼が淹れるお茶と、丁寧な所作を眺めるのが好きだ。古民家でシーシャを吸いながら、知人を交えておしゃべり。知人といるときの彼の姿を見れたこと、何より知人と会わせてくれたことがうれしかった。

 

大きい窓のある部屋。朝の光が街を照らし、山の輪郭がくっきりと現れる。眠りが浅かった私は、おはようと言う。少し遅く起きた彼が、おはようと返す。

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この旅の間中、わたしたちはいろんな話をした。紅葉が色づく美しい庭園で。動物の名前の煙たい喫茶店で固めのプリンを食べながら。浮かれ気分と寒さを口実に、べったりとくっついて歩いて。暗がりの中、街灯が反射して光る鴨川沿いの川べりで。毎度先に乗せてくれるタクシーの中で指の先っぽをつないで。好きなものの話、本気か冗談かわからないノリも。過去の恋人、仕事について、これからのこと。

 

鼻を抜けるグリーンアップルとミントの心地。苦いコーヒーとすみずみまで気配りされた空間。通りがかった小道具店に並べられた外国からきた器たち。きれいだと拾った葉っぱが虫に食われて穴だらけだった。エスカレーターのどっちに寄ればいいのか悩んだっけ。片耳ずつイヤフォンして観たジム・ジャームッシュ。わたしの最寄り駅すぐの鮨屋の夫婦が素敵だったこと

 

人生でいちばん楽しかった出来事がなんだったかと聞かれてもすぐに思い返すことができないように、どんなにきらきらした思い出も、どこかに置いてきてしまったり、いつか忘れてしまうから。わたしはその一瞬と感情を、針と糸で縫い付けるように、記録する。