君とまどろみ

いつも眠たそう

いいゆめみてね

 

酒に飲まれてカウンターで突っ伏す彼女は言った、「好きすぎてどうしようもない恋人がいる。いつか迎えるかもしれない別れを想像するとかなしくてたまらない。」わたしはどう返していいかわからなかった。涙を流す彼女に無責任な言葉はかけられない。生い立ちやキャリア、いままでの恋愛について、うんうんと話を聞いた。ワイングラスにそそがれた日本酒はどんどんなくなっていく。

店を出るまで、わたしは彼女を安心させられる言葉を見つけることができなかった。彼女にせがまれ、手を握ってマンションまで送り届ける。彼女はありがとうと少し笑って、ブランドもののバックから鍵を取り出し、高層マンションのエレベーターに吸い込まれていった。きっとこのあと彼女はあたたかい部屋で、デパコスで肌を整え、ふかふかのベッドで眠るだろう。

愛するひとがいること、見目形、キャリア、彼女のどれをとっても、わたしはうらやましかった。けれど他人の幸せも、かなしみも、自分のものさしでは測れない。

今晩のことは覚えてくれてなくていい。彼女が気持ちのよい朝を迎えられるように。帰り道に買った100円のココアの熱が沁みる夜。